交通遺児等育成基金 様へのインタビュー
まさか自分の身にそんなことが起こるなんて・・・
不慮の事故に見舞われた際、多くの人がそう感じるのではないでしょうか。その悲しみから立ち上がるだけでも大変ですが、生活は待ってくれません。ましてや、小さな子どもがいるなら尚更です。
そんな家庭を経済的な面で支えていきたい、そんな思いで活動されている公益財団法人 交通遺児等育成基金 様(以下、育成基金)。当店が寄付買取の取組を始めた2006年当初より支援を続けている団体様です。今回はそんな育成基金の専務理事 菅野孝一 様(以下、敬称略)にお話を伺いました。
交通遺児等育成基金の専務理事 菅野様
――― まず、法人設立のきっかけをお聞かせいただけますか?
菅野:設立前の時代背景として、昭和45年に交通事故死者数がピークに達したことがあります。それから昭和50年代初期ぐらいまでは減少していたのですが、そこからまた増加に転じまして、その直後くらいの昭和55年に私どもの前身の交通遺児育成基金が設立されました。
ピーク時に比べて交通事故死者数が減ったとはいえ、やはり事故は予測不可能なことです。ある日突然、親御さんや働き手を亡くされ、その中で生計を維持し、お子さんの教育資金を確保していくのはなかなか容易ではありません。なんとかそのお子さん成長を支えるきっかけをつくるものが必要では、と国―当時の運輸省―と民間団体が協力して、お子さんの支援制度を作ろうということで設立をされたのが始まりです。
――― “お子さん”というと、何歳のお子さんが対象になるのでしょうか?
菅野: 満16歳未満(0 歳から 15 歳)まで加入できるようになっていて、給付は 19 歳になるまでをサポートをしています。
大学生等に関しては既に他の支援制度があったのですが、当時、もっと小さいお子さん向けのそういう仕組みがなく、そういったケースをなんとか支援してあげたいということもあったようです。
経済的なものがメーン。でも、精神的支援も大事に
――― 支援というと、具体的にはどのような形での支援になるのでしょうか?
菅野:まず、損害保険会社などからご遺族に支払われる損害賠償金などを拠出金として当団体に払い込んでいただきます。そのお金に国の補助金と民間からの援助金を加え、安全・確実に運用し交通遺児が満19歳になるまで給付金を送金します (育成基金事業) 。
その他にも交通遺児や重度後遺障害を負った方の子弟のいる、生活が困窮している家庭に対し上記の育成基金事業とは別に越年資金(毎月12月)、入学支度金(小中学校入学時)、進学等支援金(高校等進学・就職時)などの支援給付も行っています(支援給付事業)。
コロナ禍では3年間の時限事業でしたが新型コロナ対策特別給付金として延べ2,700名の方に給付を行いました。
そういった経済的支援がメーンとはなるのですが、精神的支援も行っています。当団体では年に4回広報誌『Smiles』を発行しており、その紙面でお子さんや保護者の方からのお手紙を掲載したり、夏休みと春休みの年2回親子映画鑑賞券を配布したりしています。
また、公的な全国組織である独立行政法人自動車事故対策機構(NASVA)さんと連携、同機構主催の「友の会」活動―会員間の交流会のほかバスツアーや絵画・写真・書道コンテストなど―の支援にも力を入れており、多くのお子さんや保護者の方に喜んでいただけているようです。
――― そのようなお子さん、またはお子さんを抱えた家庭を支援される中で特に大切にされていることはどのようなことですか?
菅野:今しがた申し上げましたように、私共では交通遺児家庭に経済面での支援をするというのが中心になっております。
そのため、できるだけ中間的な経費をかけずに頂いたご寄付、頂いた支援はそのままできるだけ多くの部分を交通遺児たちに届けたいという考え方でおりまして、5人という少人数体制で運営しています。
そういう小規模体制なので個別に交通遺児家庭に接したり、フォローしたりというのはなかなかできません。そういう中で我々としては広報誌『Smile』が交通遺児たちの家庭と支援者の皆さんを、そして我々事務局も含めてつないでいる貴重な接触の機会になっていると思っております。
その中でできるだけ交通遺児の方や親御さんの思いを綴ったお便りも掲載して、他のご家庭に紹介したり、当団体の考えを紹介したりしています。あるいは寄付者の方に対する感謝の気持ちなども多くお便りで寄せられますので、そういったものを届けられるようにと作成しています。
また、どういう方から寄付をいただいているのかも加入者の皆さんにとってはご関心の高いことですので、そういったことも取り入れながら各家庭に寄り添った内容にしていけたらと考えております。
2つの課題―認知と信頼
――― ご活動をされていく中で困難に感じること、大変に感じられることはどのようなことですか?
菅野:私たちとしては大きな課題が 2 つあります。一つは「認知度の問題」、もう一つは「どうしたら信頼して大事なお金を預けていただけるか」です。
一時期に比べると減っているとはいえ、今も年間2,000数百名の交通事故で亡くなる方がいらっしゃいます。それに対して私どもの加入者はここ最近年間 20~30名台です。
私どもでは警察や損保会社にリーフレットを置かせていただいたり、自治体にお願いしたりという形で、対象となる方に案内してもらうということはやってはいるのです。
ですが、常日頃から事故に遭って亡くなるなんていうことを考えている方はいないですよね。そういうことが起こって初めて“どういう制度があるのかな?”という発想が浮かぶかどうかということでしょうから、なかなか知っていただけないというのが現状です。
ただ、新たに加入した方から「もう少し早く知っておけば、もっと早く入れたのに」という声を頂くこともあって、本当にどう知っていただいたら良いのかというのが課題でもあり、悩みでもありますね。なかなか解決策がないのですが。
――― もう1つの課題は“信頼”とおっしゃっておられましたね。
菅野:はい、やはり加入にあたって拠出金を先に預けていただくということもありまして、我々としてできるだけ加入する方の立場に立って分かりやすく信頼してもらえるように説明はしているのですが、不安が先に立つという部分は間違いなくあると思っています。
やはり警察とか自治体など公的な機関に「こういうのあるよ」と紹介していただくのが一番です。それ以外にも「公益法人で、しかも国から補助金も受けています」というようなことが大きな安心材料になるかとは思うのですが、多くの団体さん・企業さんから寄付をしていただいている組織だということも加入者にとっては安心できるポイントとなると思います。
現在配布されているリーフレット(上左:表 / 上右:裏 / 下:育成基金事業と支援給付事業の紹介)。クリックで別タブ表示されます。
「知らなくて入れなかった」を無くしたい
――― 当店からお渡しさせていただいている寄付金は、どのような目的で使用されているのでしょうか?
菅野:先程の話に出てきました満19歳までのお子さんに月額いくらという形で支援する育成基金事業に一部活用させていただいているほか、支援給付事業などは全額寄付金で賄っております。先程ご説明した新型コロナ対策特別給付金、あれも全額の寄付金からお支払いしております。
我々の仕組みが成り立っているのは、すべて寄付金をいただいているからで、本当に感謝してもしきれません。
――― 当店として今後、何かお手伝いできることがございますか?
菅野:変わらぬご支援をいただければ大変ありがたいというふうに思っております。あとは、先程も話題にあがりましたが当基金にとって認知度のアップが1つの課題ですので、その支援をいただけるとありがたいと思っています。そういう意味では今日のこのインタビューをHP等に掲載いただくということは、要望にぴったりマッチしてありがたいです。
やはり、できるだけ多くの方に当基金の存在、「こういう仕組みで支援制度はあるよ」ということを知っていただきたい。そして、万が一のご不幸が周辺で起きた時、どこか頭の片隅にその情報があることで「そういえばそういう仕組みをちょっと聞いたな」と、「この制度を知らなくて加入できなかった」という方が少しでも減ってくれれば良いと思います。
知った上で入る、入らないの判断をするのはご本人次第なのでしょうけれど、「知らなくて入れなかった」というのは本当にすごく残念なので、少しでも知っていただきたい。
そして、それが“加入者が増える=助かる方が増える”ということに繋がったら一番いいなと思っています。
――― ありがとうございます。できるだけ多くの方の目に触れるように頑張ります。