CAPセンター・JAPAN 様へのインタビュー
子どもに対するあらゆる暴力を黙認・容認しない社会へ
NPO法人CAPセンター・JAPAN( 以下、CAPセンター)。CAP(キャップ)とは「Child Assault Prevention=子どもへの暴力防止」を意味する三語の頭文字をつなげたものだ。その名のとおり、子どもの人権を侵害するあらゆる種類の暴力(虐待、いじめ、体罰、連れ去り、性暴力など)を許さない社会を創ることをめざして活動している。
昨今各所で周知されているSGDsの目標のターゲット16.2、すなわち、「子どもに対する虐待、搾取、取引及びあらゆる形態の暴力及び拷問を撲滅する」という目標にもリンクする内容だ。
今回はCAPセンターのご担当 長谷様に改めてCAPセンターの活動内容、今後テトテがどのように協力していくことができるのかを伺った。
子どもに特別に大切な3つの権利「安心・自信・自由」
―――まず、CAPセンターの法人設立のあらましをお聞かせいただけますか?
長谷:CAPプログラムは、元々アメリカで生まれたものです。そして、そのプログラムが日本にはじめて紹介されたのは1985年のことでした。
ちょうどその時期に、日本においても潜在的にはあったであろう子どもへの暴力が表面化してくるようになりました。そのような流れの中で1990年、児童相談所で扱う児童虐待ケースの統計的把握が始まり、子どもの権利関連の大きな動きとして1994年には日本でも国連「子どもの権利条約」を批准しました。CAPの実践者の養成講座が本格的に日本でスタートしたのはその翌年、1995年です。
その同じ年に阪神・淡路大震災が起こるのですが、この中で市民活動の大切さというのが認識されはじめて1998年にNPO法が制定されたこともあり、CAPセンターもNPO法人として2001年に法人化されたという流れになります。
―――そうなのですね。長谷様はどのような経緯でCAPセンターの活動に参加されるようになったのですか?
長谷:私はその1995年、CAPが日本で本格的に始まったときの養成講座を受けたのが縁です。当時、私は子育てについて迷いというか違和感がありました。30年近く前の日本では「母親はこうすべき」という「べき論」が今よりもはっきり見える形で私に迫ってきていました。母親でいることと自分らしく生きることがつながらない-そのような中で知り合いから教えてもらい、CAPの養成講座を広島で受けました。
その後、京都、東京のCAPグループで活動して、大阪に転居することになったタイミングで「事務所で働かないか?」と声をかけられて今に至ります。
―――なるほど、CAPの活動にもう長く関わられているのですね。次にCAPセンターで行われている活動内容について伺いたいのですが。
長谷:まず、先程ご紹介したCAPプログラムの普及とそのための人材育成があります。そもそも、CAPプログラムとは子どもの人権を侵害するあらゆる暴力を許さない社会を創ることをめざし、子どもが権利意識をもって、自分を守る力を高めるための人権教育プログラムです。
そのCAPプログラムのベースとなるのが、子どもに特別に大切な3つの権利「安心・自信・自由」です。
子どもが暴力にさらされたときに陥る心理状態には、第一に不安や恐怖心があります。そして、「自分は暴力を受けても仕方のない存在」「どうせ自分は駄目なんだ」という無力感、果ては「もう諦めるしかない、選択肢がない」というような絶望感に至ります。この3つそれぞれの状態の対極にあるのが「安心・自信・自由」で、子どもがいきいきと育つのに必要な心理状態です。この3つは子どもにとって特別に大切な権利です。子どもたち自身が「自分は権利をもった大切な存在だ」と知り、大切な自分という感覚(自尊感情・自己肯定感)をもつことが暴力を阻止する一番の力となると考えています。
このことをおとなにも子どもにも知ってもらい一緒に考えるためにワークショップを開催しています。
―――ワークショップはどのように開催されているのでしょうか?
長谷:地域のCAPグループが実施主体となるのですが、まずはおとなを対象にワークショップを行います。第1段階として教職員向けに、そして第2段階として保護者や地域のおとなを対象に。最後の第3段階として、学校の1クラス単位ごとに子どもたち向けのワークショップを行います。
ワークショップという形をとっているのは、参加者が主体的に取り組めるようにするためです。単に話を聞いて終わるのではなく、感じて、考えたことを、日常生活に役立ていただくことを大切にしています。
2021年度末までの間におとな・子ども合わせて570万人を超す方たちにプログラムに参加していただきました。地域によっては行政から委託されてプログラムを実施しています。自治体数でいうと、50あまりになります。
CAPを普及するための中期計画
―――CAPを普及するための、その他の取り組みについてもお話を伺えますか?
長谷:2020年から2023年度までの中期計画では4つの柱、すなわち
①ネットワーク・市民参加推進事業 (つながりをつくる)
②子どものアドボカシー推進事業(子どもアドボカシーの日常化)
③CAPプログラム普及促進事業 (子どもにとって信頼のおける予防教育の普及促進)
④トレーニングセンター伴走支援事業(地域活動の活性化)
を立てて取り組みを行っています。
2021年度の事業を例にお話しすると、
①のネットワーク・市民参加推進事業ではいくつかオンライン講座を開催しました。例えば「子どもの権利と新型コロナ」、「子どもへの性暴力」をテーマにしたものなどです。その他、単発の講座だけではなくオンラインの連続講座なども開催しました。そして、関連団体とのネットワークを強化する取り組みも行いました。
ノースブックセンター様にご協力いただいている「古本でできる子どもへの暴力防止活動(古本寄付)」の取り組みもこの枠組の中での位置づけになります。
②の子どもアドボカシー推進事業ですが、アドボカシーというのは「権利擁護」「代弁」を意味します。つまり「子どもの声を聴けるおとな」を増やすための事業です。こちらでは動画の配信を行ったり、ブックレットや保育者対象の冊子を発行したりという取り組みをしました。
③のCAPプログラム普及促進事業は地域のCAP活動の活性化をめざしてCAPプログラムの実践者(CAPスペシャリスト)、地域で活動できる人を増やすことを目的とした活動です。「子どもへの暴力防止のための基礎講座2021」「CAPスペシャリスト養成講座」などの実施、CAP活動のポータルサイトとして情報収集や発信、そしてその共有を行いました。
④のトレーニングセンター伴走支援事業ですが、CAPプログラムを実践する人たちのためのトレーニングセンターとして、それらの人たちの活動を支える取り組みです。事務所も月~金曜日は開所して対応しますし、CAPスペシャリストの資格更新のための研修を行ったり、オンラインでの相談、講師派遣等を行ったりしました。
また、上記のような取り組みは継続的に行われることが望ましいのは言うまでもなく、我々の組織自体が持続可能な運営をしなければなりません。そのために助成金を獲得したり、企業と協力したりという取り組みも同時に行っています。
―――同時にいろいろな取組をされているのですね。CAPセンター法人設立から昨年で20周年を迎えられましたが、その間、子どもたちを取り巻く環境には変化があったように思われますか?
長谷:先程も少し話が出ましたが、1990年に虐待の統計調査が開始されましたが、それ以前に子どもへの暴力がなかったわけではありません。統計上はあらゆる形態の子どもへの暴力の相談件数や認知件数が右肩上がりで増えてはいますが、虐待を含む子どもへの暴力が社会課題であるという認識が広がり、「これはおかしい」と声を上げる人が増えたという解釈もできます。ですので、できる限り早い段階での予防的観点の取り組みの充実を図ることが必要だと思っています。
しかし、子どもたちを取り巻く環境にも変化があって、例えばネット内でのいじめなどオモテからは見えない問題が増えているとは思います。そして、そこにおとなたちがついていけていない。ネット空間に限らず、子どもの置かれた環境が厳しさを増しているのはおとなの問題だと私たちは考えています。
また、1994年に子どもの権利条約が批准されてから久しいですが、「子どもの権利」という言葉を出すと、未だに「子どもに権利なんか認めたらわがままになるだけだ」という人がいて、まだまだ子どもの権利についての理解が進んでいるとは言えない状況だと思います。子どもたち自身にしても、教科書の隅に掲載された情報として、あるいはテストに出るから覚える知識程度の認識の人が多いのではないかと感じています。
コロナ禍における子どもたち
―――コロナ禍と言われる時代に入って3年近く経ちますが、コロナに関連して何か子どもに変化があったように感じられることはありますか?
長谷:そうですね、まず感じることはコロナ禍にあっても子どもたちは懸命に頑張って生きているということです。できないことがあるなりに、自分のできることを工夫してやっていると思います。
ただ、コロナの影響で経済的に困窮した親がストレスを抱えることにより、それが子どもに向かい、親もですが子どももしんどい状況にあるという家庭もあります。そこで出てくる問題が、そういった家庭環境に耐えられなくなった子どもの家出の増加です。子どものためのシェルターに寄せられる相談電話の情報では、そういった家を出ざるを得ない子どもたちが風俗など含めおとなに搾取されてしまうような事例なども聞きます。
また、コロナとの関連性ははっきりしませんが、子どもの自死が増加していることも憂慮すべき事実です。
コロナ禍で加速した子どもたちのたいへん厳しい環境もあって、来年2023年4月から、国はこども家庭庁を設置し、「こども基本法」を施行します。これを機会に、子どもの権利が当たり前の社会になることを期待し、私たちもより積極的な活動をしていくことが必要と思っています。
いただいたご寄付はCAPプログラムの実施費用に充てています。
―――ありがとうございます。次に当社を知ったきっかけを伺いたいのですが、たしか当社従業員の親族の紹介でしたよね?
長谷:そうです。当法人で熱心に活動されていた方から、「こういう社会貢献について活動している会社があるよ」ということで紹介してもらって。私達の活動内容もご説明させていただきながら、参加させていただくことになったという経緯ですね。
―――次に、当社で寄付させていただいているお金の使い道について伺いたいのですが、どのような事業に使われているのでしょうか?
長谷:CAPプログラムは幼稚園、保育所、学校や施設から依頼があって地域のグループが提供します。具体的には子どもたちへのワークショップ開催のために、1クラスにおおよそですが2万円くらいの経費がかかるため、その実施の費用に当てさせていただいています(子ども1人の費用600円を1クラス30人で換算)。
―――この度、寄付買取から「テトテ」と事業名もリニューアルしたこともあり、今後は団体様との連携を一層図っていきたいと考えているのですが、どのような形で当社はCAPセンター様を応援できるでしょうか?
長谷:まずは、何よりもCAPセンターの活動をより多くに方に知ってもらうというのが重要なため、「テトテ」の中に当団体のリンクをはっていただけるとありがたいです。
「何か子どもたちのためにしたいと思っているけれど、どうアクションを起こしたら良いかわからない」というとき、古本によって気軽に行動に起こせるというのがこちらの事業の特長ですよね。身近な古本から私達への応援―子どもへの暴力防止への参画という導線を今後も確保していただければと思います。
また、連携を密にしていけるのでしたら、当法人が行うキャンペーンや活動などを定期的にご紹介いただくなど、お互いに広報に力を入れていけたら良いかなと思います。
―――これまでとは買取できるもの・できないもののルールなども変更し、買い取った本の査定作業の一部も障がい者就労支援施設の方々にお願いするなど、新しいことにも「テトテ」ではチャレンジしていく予定です。古本屋である私達が古本を使って子どもたちや、生きづらさを抱える人たちの力になる仕組みとなれるよう尽力いたしますので、今後もご協力よろしくお願い致します。貴重なお話をありがとうございました。