みんなの居心地が良い、
安心して働けるところでありたい
風の谷さん
2022年9月、新たに当店のお仕事の一部をお任せすることになった障がい者就労支援施設がある。八王子市内に2つの事業所を構える「障害者就労継続支援A型事業所」の「風の谷」のみなさんだ。「風の谷」さんは当社内でする作業だけでなく、ご自身の事務所内でも古本販売する等の事業も行っている。
これまで、当店では2つの「障害者就労継続支援B型事業所」のみなさまに古本の無償提供や査定作業の一部をお願いすることによって、仕事の創出へのお手伝いをさせていただいてきたが、A型とB型はどう違うのだろうか?
そのことも含め、新たに仲間に加わっていただいた「風の谷」の管理者草野さんにお話を伺った。
雇用契約を結び、最低賃金を保証する。
そこが大きな違いです。
――まず、障害者就労継続支援事業のA型とB型の違いについて教えてください。
草野:A型とB型の一番の大きな違いというのが、まず、雇用契約を結ぶか、結ばないかです。一般の就労で雇用契約を結んで働くことは難しいけれど、少しの支援があれば雇用契約を結んで働けそうな人が A型にいらっしゃいます。B型はそれも難しいという方が利用されます。また、A型では雇用契約を結ぶことによって地域の最低賃金で働くことが保証されます。それと、B型には年齢制限はないのですが、A型は18歳以上65歳未満という制限があることも違いですね。B型からA型へステップアップする方もいらっしゃいます。
――次に風の谷さんの利用者さんの数、職員さんの数などを教えていただけますか?
草野:風の谷は1号店と2号店の2箇所で運営しています。主に古本の事業に関わっているのは1号店の方です。1・2号店全体で今、契約している方が43名。スタッフは全体で 15名です。
年齢は一番若い方が21歳、最年長が60歳。60歳の方は58歳の時に雇用したんですが、開設から2年くらいたって60歳になりました。平均年齢は37歳です。
――当店に来ていらっしゃる方は比較的若い印象ですが。
草野:そうですね、ここで働いている方は若いですね。今日来ているメンバーは20代と30代です。
――古本に関わられている方は若い方が多いのですか?
草野:そんなことはないですよ。外でする仕事はなかなか難しいという方もいて、ここではなくて事業所の中で一件一件本のデータを入力するというようなお仕事をされている50代の方もいらっしゃいます。
――古本のお仕事に関わっている方は何名ぐらいいらっしゃるのですか?
草野:今、1号店には27~28名くらいいるのですが、そのうち20人ぐらいは関わっています。障害の特性上、新しい仕事を覚えられないなどの理由から、古本以外の仕事が難しい方もいらっしゃいます。でも、今までずっと継続してきたことは得意で、何日も根気強く本の状態を見て、それをパソコンに入力するお仕事やっている方もいらっしゃいます。
将来的には障害者雇用や一般就労を目指している人たち
――「風の谷」さんにはどのような問題を抱えている方、障害特性を抱えている方が多く通われているのですか?
草野:今契約されている43名のうち3/4ぐらい、約30人の方は精神保健福祉手帳をお持ちの方です。病名としては、統合失調症、うつ病、双極性障害などですね。発達障害の方も取得する障害者手帳は精神になるので、そういう方達もいます。
また、発達障害ゆえに、なかなか人とのコミュニケーションが上手くいかなくて、その結果として統合失調症を患ってしまう、うつ病になってしまうというような二次障害の方もいらっしゃいます。
―― 当社に来ていただいている方も、「我々とあまり変わらないね」という話はします。
草野:そうですね。特にここに来ている人たちは、ずっとA型にいる気はなくて、障害者雇用なり一般就労を目指している方達です。
でも、契約したての頃は体調もいまひとつで、「朝起きるのが辛い」とか、「週5は難しいかも」といったような感じで週4から始めた方もいます。
そんな方でも、毎日働いて生活のリズムをつけることで、だんだん体調も回復してきて巣立っていく。私たちはそういう通過点でありたいと願っています。理想的にはそうやって卒業していってくれるといいなと。
「ナウシカ」のガスマスクのいらない、安心して働ける場所=風の谷
――先ほど、A型とB型の大きな違いとして雇用契約を結ぶ点があると教えて頂きました。利用者の方との直接雇用というのは、企業側から見ればある種、リスクを伴うと思うのですが、それでもB型ではなくA型をつくろうと思われたのは、どういういきさつがあってのことなのでしょうか?
草野:今、八王子にはB型の事業所は70ヶ所ぐらいあると思うんですけど、A型は8ヶ所…10事業所はないと思います。本当に少なくて。だから、需要はあるのではないか?というのと、みんなやはり最低賃金で働きたいという思いがあって。それで、A型をやってみようということになりました。
――「風の谷」さんのミッション、一番大事にされていることというのは、先ほども話に出たような「入ってきた方が一般の社会に出ていく」ということなのでしょうか?
草野:それも大事なんですが、「風の谷」ではどちらかというと、「みんなの居心地が良い、安心して働けるところでありたい」ということを一番に思っています。「風の谷」という事業所名の由来も、「風の谷のナウシカ」の「風の谷」なんです。あのお話の中で「風の谷」はガスマスクがいらない空気が綺麗な場所で、皆が安心して働ける、そして、希望が持てる場所として描かれています。私たちの事業所もそうなることが理想です。
本のお仕事は障がいのある方に向いている
――当社のことはどのようにお知りになったのですか?
草野:プランズの稲葉さんからご紹介いただいたんです。
元々、稲葉さんとは別の障害者就労支援事業所で一緒に働いていて、そこでも古本を扱っていました。
これは、その事業所の代表の受け売りなんですけど、やっぱり本の仕事は障害を持った方に向いていると思います。八王子の障害福祉サービスの事業所はだいたいパンを作ったりとか、クッキーを作ったりとか食べ物を扱っているところが多いのですが、食品にはどうしても賞味期限があって。それよりは腐らない本でストックビジネスを、みたいな考えなんですよね。
あと、外注のお仕事ですと、どうしても納期も出てきますし、ミスに厳しいこともあるんです。でも、例えば、寄付でいただいた本を万が一間違えて壊してしまったとしても、まだ「そこは大丈夫だから」って言えるんですよね。こちらとしても余裕をもって対応できるんです。出品した本が売れた時には多少、発送までの納期はありますけど、そこまで慌てなくてもできます。
そして、本に関わるお仕事にはいろんな作業があります。まず、本の状態を見て入力する仕事があって、それが終わったら棚に並べる仕事があって、棚番を決めたらそれをまたデータに入力して、売れたらピックアップして、そして発送する、と。それをみんなで分担して、それぞれが得意なことをできるので、すごくありがたい仕事だと思っています。
――本の仕事に関して利用者さんの反応はいかがですか?
草野:みなさん、自信がついてきていると思います。
利用者さんで「すごい充実してて楽しいです」って言っている方もいます。「あっという間に時間が過ぎます。」って。その方は軽度の知的障害の方なのですが、本当に仕事はよくやってくれます。この仕事は「楽しい、楽しい」「ノースブックセンターの仕事、行きたいです」って言ってくれるんですよ。
パソコンはちょっとまだ苦手なんですけど、「それも覚えてみたい」って、すごい今意欲があるので、「まずはバーコードをピッてやるのからやってみようか」って言っています。
あと、仕事帰りの車の中で「今日は◯◯箱分仕事ができたから、最低賃金稼げたね。」みたいな話をしたりもしています。わたしも「頑張ったよ、みんな!」って(笑)。
――今後もお互いに助け合える、「こちらも助かるし、風の谷さんにとってもいいお仕事だ」という関係にしたいと思うので、ご要望あれば遠慮なくおっしゃってください。
こういった取組を継続的に続けていければ、この活動を知った方が「じゃあ、ここに本を売ろう」「ここから本を買おう」という選択をする。その良い循環が拡大できれば更に理想的だと思います。
今回は貴重なお話をいただき、ありがとうございました。