障害者の「生きづらさ」軽減したい
~古本×就労支援~
浩仁堂さん
東京都武蔵野市にある古本屋、「浩仁堂」。外観は普通の古書店であるが、その設立目的は他の古書店と大きく異なる。
代表者である直志浩仁さんは、浩仁堂の起業以前は精神障害者施設で職員として働いていた。「障害者が社会の成員として生きていく上での「生きにくさ」を軽減したい。」そんな思いから株式会社浩仁堂を起業、さらに就労継続支援B型事業所である「CABANE(カバーヌ)」も設立。浩仁堂の古本屋の仕事を「カバーヌ」に委託することにより、障害者の働く場を実現したのだ。
「多様性」であるとか、「障害者」や「地域」というキーワードを頻繁に耳にするようになった昨今でも、障害を抱える人たちの就労事情は甘いものではない。障害者のための就労継続支援B型事業所では、生産活動によって得られた利益を利用者に工賃という形で配分するが、その全国平均は時給にして実に200円と一般的雇用の最低賃金を大きく下回る。
古書販売を通じてその現場の只中にいる直志さんにお話を伺った。
就労支援、地域活動支援、計画相談、
いろいろやってます。
――― まず、浩仁堂さんがどのような事業をされているのかをお聞かせください。
直志:浩仁堂で古書販売をするほかに、「古書マージナル」という屋号もあり、そちらは就労支援事業所を卒業した人が働ける受け口として機能することを想定していたのですが、そちらはざんねんながら軌道に乗っていなくて、古書販売は浩仁堂カバーヌの作業種目となっています。
就労継続支援B型事業所である「カバーヌ」のほか、市からの委託事業として「地域活動支援センターI型」というものもやっています。精神保健福祉士などのスタッフがいて困りごとの相談や地域の医療機関・支援機関等との連携と言ったサポートを行っています。
また、障害のある方へサービスのコーディネート(計画)をしたり、その計画が利用者にとって適切かの確認をしたりする、介護保険でいうところのケアマネさんのような、計画相談支援という事業も行っています。
また近くグループホームを開設するべく準備しています。
――― いろいろな事業をされているのですね。カバーヌではどのような方が、どのように働いていらっしゃるのですか?
直志:精神障害、身体障害、知的障害の方々が利用なさっています。精神障害というとその範囲は広いのですが、発達障害の方々も含まれます。
2022年5月現在、登録者数は34名で、一日あたりに16名が利用されています。
本を仕入れて販売するまでにはいろいろな作業が必要になります。例えば、お客様からの買い取り、値段による仕分け、値付け、クリーニング作業、出品作業、梱包から発送まで。この方にはどの仕事が向いているか、利用者さん各々の特性に合わせてお仕事を振り分けています。
古本販売の他にもアニメのセル画の彩色作業もやっています。本が好きな人、アニメが好きな人が作業をやりたいと利用してくださっています。利用者さんにとっても魅力的でやりがいのある仕事内容を用意したいと考えています。
――― よく就労継続支援B型事業所で働かれている障害者の方の工賃が低いとう話を聞きますが、浩仁堂さんではどれくらいの工賃が支払われているのでしょうか?
直志:浩仁堂ではお一人一月あたり平均1.5万円ほどの工賃をお支払いしています。時給にすると400円です。
利用者の方で経済状況に恵まれているという人はそんなにはおらず、工賃があってたすかると言う人は多いですよ。一部、生活保護を受給していると工賃として支払われた額が差し引かれてしまうという仕組みになっているので、モチベーションを下げる要因とはなっています。しかし、金額云々というより、社会的なつながりを求めてカバーヌの利用を希望される方も少なくないです。また、少ない工賃から「甥っ子にお年玉をあげるんだ」と頑張っている人もいて、そういう人には頭が下がります。これからもすこしでも工賃が上がるよう利用者さんとともに頑張っていきたいと考えています。
――― なるほど。工賃にアップにつながるような、仕組みづくりの一端を当社でもお手伝いできればと考えているのですが、どんなことが考えられると思われますか?
直志:まず、作業量が安定しないという課題があるのです。組合からの仕入れ、お客様からの買い取り、社会福祉協議会との協力等で本をあつめてもやはり、作業量の多寡は出てきます。
ノースブックさんの不要な本を頂戴できるのであれば、店頭では文庫本や絵本などが良く売れるので、そういったものが定期的に一定量入ってくるとありがたいです。また、ISBN(本につけられた10桁、もしくは13桁の数字)のない本は作業が難しくて溜まってしまう傾向があるので、バーコードのある本の方が作業しやすいです。
お金を得ながらの社会貢献
~ビジネス×福祉の課題~
――― そうなのですね。当店では小説なども文庫本は販売を苦手としているんです。一方では捨てられる本を減らし、一方でそれが障害を持つ方の就労の場を確保することに使われるのなら、是非そういった本の一部をご提供させていただきたいのですが。
直志:それはとてもありがたいお話です。ノースブックさんと浩仁堂がともに幸せになる形ですね。また、お客様の視点からすれば古本を売ってお金を得ることがそのまま社会貢献にもつながる。
こういった、「お金を得ながら社会貢献もできる方法がある」ということをもっと広く知ってもらいたいですね。