障害者就労支援 × 古本 × SGDs
plansさん
ノースブックセンターには毎週水曜日に「お客様」がやってくる。自社の従業員ではないという意味ではそうだが、「お客様」という言い方は、実は正しくない。実店舗のない当店にやってくるこの「お客様」は、実は障害を持つ方の就労を支援する事業所で働く方々だ。
その事業所の名称は一般社団法人sorairolinkの「就労継続支援B型事業所plans(プランズ)」さん(以下、Plans)。「就労継続支援」とは、一般的な事業所で就労することが困難な方に対して就労や生産活動の機会の提供をし、また、就労に必要な知識や能力の向上のために必要な訓練などを提供する事業のことだ。
彼らは当店が販売を苦手とする本の中から一部を選別し、そしてその本をネットで販売することを生産活動としている。当店としても、販売が苦手な本≒ほぼ廃棄される本を減らすことができるため、Win-Winの関係と言える。
昨今、各企業が達成を目標として掲げるSDGsの一部(「1 貧困をなくそう」「8 働きがいも経済成長も」「12 つくる責任 つかう責任」「15 陸の豊かさも守ろう」etc,.)にも関連があると言えるだろう。
就労支援に古本を活用しているところはまだ少なくて
――― はじめに、稲葉さんがplansさんで古本を扱った就労支援をはじめたきっかけを教えてください。
稲葉:plansは主に精神障害のある方を対象とした事業所になっているのですが、最初は知的障害のある方の入所施設で働いていました。その施設の日中活動で本の作業をやっていたんです。そこで知的障害のある方の生活支援を7-8年、そのあとは八王子の別の事業所で働きました。そこでも古本を扱っていて。
その後、精神障害についても知りたいという思いから精神障害がある方の事業所で働きながら精神保健福祉士の資格もとりました。
そんなとき、ジョブボン(役目を終えた本を回収し、障害者就労施設で古本としてネット販売することで、障害者の雇用創出・自立支援を行う活動。こちらを参照(https://www.jobbon.net/))の運営元であるワーキングバリアフリーを知りました。ノースブックセンターさんのことも、そのワーキングバリアフリーを通じて知ったんです。
Plansの立ち上げ当時はまだジョブボンの取組にも2、3事業所しか参加していなかったんですよ。本を扱っている事業所にそれまでも関わってはいたのですが、まだ就労支援に古本を活用しているところは少なかったので、それをやっていきたいと思って4年前にplansを立ち上げました。
――― plansさんではどういった方が働いていらっしゃるのでしょうか。
稲葉:先程も申し上げましたように、主には精神障害のある方が利用されています。精神障害と一口にいっても、そこには非常に多様な状態の方が含まれていて、例えば、うつや統合失調症、発達障害の方などです。
設立当初は年齢が40代から50代の比較的上の方が多かったんですが、最近、ここ2年くらいは若年の発達障害の方の利用希望が多いですね。
年代の比率でいえば、現在は6割ほどがそういった20代から30代の比較的若い方が占めています。
ちなみに、現在の登録者数は30名、一日あたり15人から20人の方が利用しています。男女比率は男性が8割、女性が2割です。
――― 年代が違えば、そこでニーズにも違いが出そうですね。
稲葉:そうですね、高年齢の方になると「自宅で暮らしながら、正しい生活リズムを維持したい」とか、「働いていないけど、外に出る場所が欲しい」であるといったニーズが多いです。また、「元々は会社で働いていたんだけど、そこで調子を崩してしまった。その後、病院でのケアも経験、その後は行く場所がなくて…でも就職したい」という流れで利用される方もいます。
若い方は、大学や高校を卒業したけど就職が難しかった方や就職したけど仕事内容や人間関係で継続できず退職して当事業所のサービスにつながるというケースが多いですかね。
――― 実際に障害のある方たちがお仕事をする上で困難を感じる部分はどんなことなのでしょうか?
稲葉:人によって色々あると思いますが、体調が安定しないことがあります。体調の変化を本人と周囲が把握できる環境でないと、症状が悪化してようやく体調不良に気づいたときには仕事を継続することが難しくなっているということもあります。あとは、人との距離感やコミュニケーション。例えば、仕事場での人との距離感とプライベートでの人との距離感を上手に分けて行動することが難しかったり、コミュニケーションの取り方が独特で周囲に理解されにくいなど人間関係や社会生活を送る上でのバランス感覚をとるのが苦手な方が多いです。
あとは、細かいことでいうと休憩時間をどう過ごしたらいいか分からないとか、服装や身だしなみどうすればいいか分からないとか、そういうところのアドバイスもします。プランズでは古本を活用した支援を通して実際に働く場合の場面ごとのイメージトレーニングを行っている感じです。
就労訓練にとても適しているんです
――― 古本を扱うお仕事は、そういった方々へのお仕事として適したものなのでしょうか?
稲葉:まず、本が好きでうちに決める方もいるんです。相談支援員さんなどの口コミで、「あそこは1人でもくもくと取り組めるよ」などおススメしていただいて来る方もいます。
また、ノースブックセンターさんから寄贈していただいた本は、利用者の方が検品やクリーニング・登録作業等を行ってネット販売しているんですが、本の作業は回収作業で身体を動かしたり、検品やクリーニングは一人でじっくり取り組めたり、売れた本の出荷の作業は何人かで間違いがないか確認しながら作業を進めたりと、多様な作業種が準備できるので就労訓練にとても適しているんです。本は検品が不十分だったりすると、お客様から返品されることもあります。自分がかかわった仕事の結果が目に見えるので、実践的なお仕事でもあるなと思います。中には、そのお客様に向けて出荷されていくということまで意識して作業される方もいますよ。
検品には時間がかかりますが、実はその「時間をかける」ということが狙いだったりもします。1つの目標に向かってじっくりと取り組む練習になるんです。中には何かに集中することが難しい方もいますからね。
福祉とビジネスのマッチングが課題
――― 最後に、当社がさらにご協力できることがないか伺いたいのですが。
稲葉:現在、うちで扱っている本の半数ほどがノースブックセンターさんからの本になります。本を増やすことができれば一日に作業できる量も増え、工賃も上げられるので理想です。ただ、仕事量と利用者さんの作業のしやすさのバランスが課題ではあるのですが。
作業のしやすさという点でいうと、うちの事業所では打ち込みなどの練習も兼ねてISBN(本に付けられた10桁、または13桁のコード)のない古い本も持って帰らせていただいたりもしていますが、基本的にはISBN、バーコードのある本です。このような本が作業はしやすいですね。
――― 入ってくる本の量は増やしたい?
稲葉:全体として本の量は増やしたいです。就労継続支援事業所では仕事を用意しなきゃダメというのがまずありますが、作業量が安定しないことがあります。ただ、福祉の現場の課題の常として、ビジネス的な働きかけというか、マッチングが苦手なことがあります。そういった意味でも、ワーキングバリアフリーさんやノースブックセンターさんは貴重なビジネスへの窓口だと思います。
――― 障害者雇用の安定的な創出という福祉の現場が抱える課題に、古本廃棄という当店が抱える課題をかけあわせて、どちらもが得をできる仕組みを拡大していけたらと思います。