みんな違って、みんな良い。
自信を持って働いてもらいたい。

rootsさん

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2022年4月。当店の事務所がある八王子市越野にて、新しい試みが始まった。毎週 月・水・木の週3回、買い取った古本に関わる事務作業を一部委託することになったのだ。

委託先は東京都多摩市にあるroots(ルーツ)さん。一般的な事業所で就労することが困難な方に対して就労や生産活動の機会の提供をし、また、就労に必要な知識や能力の向上のために必要な訓練などを提供する事業を行う「就労継続支援B型事業所」だ。

障害者の就労支援事業、特に雇用契約を結ばず、事業所において行った生産活動から得た利益を工賃という形で利用者に支払う「B型事業所」では工賃の低さがよく問題視される。当店での作業をお願いすることで、より多くの本を再び流通させることができ、就労継続支援事業所にとっては仕事の創出、ひいては利用者にとっての工賃の引き上げにつながる…お互いにメリットを享受できる関係を築いていくことが理想だ。

お仕事ぶりを拝見すると、職員さんと一緒に3名から4名の方が倉庫内でもくもくと作業していただいている。「これはこうかな?」「これはどうしたらいい?」そんな会話も時折耳に入る。みなさん、とても一生懸命だ。

今回は管理者である渡邉勇さんに、ルーツ立ち上げの経緯や当店を知ったきっかけ、今後の展望などについてお話を伺った。

中学のとき読んだ漫画がきっかけでした

ーー まず、ルーツさんを立ち上げられたきっかけを教えて頂けますでしょうか?

渡邉:まず、僕が福祉の世界で働くことを決めたきっかけなんですけど、去年、パラリンピックがありましたよね。そのパラリンピックをはじめて日本にもってきたお医者さんで中村裕さんっていう方がいらっしゃるんです。僕が中学生の頃に週刊少年マガジンの特別読み切り漫画で、その中村さんが「太陽の家」っていう社会福祉法人を作った話が出てたんです。それを読んで、「ああ、こういうお仕事もあるんだ、僕は将来福祉をやろう」って決めて。そこからブレずに専門学校を卒業して、就職して、その後もずっと福祉の事業をいろいろやっています。

その中で私がB型の事業所立ち上げに関わったこともあったので、もともと飲み友達だった弊社(株式会社障碍社(https://shogaisha.co.jp/)代表の安藤に声をかけていただき、開所したのがルーツなんです。

ーーそうなんですね。開所してからはどれくらいが経ちますか?

渡邉:1年ちょっとですね。令和3年の春が開所なので1年ちょうど経った頃ですね。

ーー 現在利用者さんは何名くらいいらっしゃるんですか?

渡邉:今は男性が25名、女性が20名の計45名の方が利用契約をされているっていう形になっていますね。内訳は精神障害の方が30名、知的障害の方が8名、身体障害の方が7名です。

うつ病や統合失調症等の精神障害の方が多いです。仕事関係や人間関係のストレスであったりとか、もともと発達障害などで人間関係が苦手な中でずっと生きてきたりした中で、他の方とうまくいかなくて社会に適応できずに発症してしまうという方もいます。

ノースブックセンターに来ている人は、だいたいいつも3名から4名ですけど、半分以上が精神障害のある方、残り1名から2名が知的障害のある方という感じのチームを組んでいます。

ーー 職員の方は何名くらいなのですか?

渡邉:7名です。非常勤が2名、正社員の常勤が5名です。他の事業所さんと比べると職員数はかなり多いと思います。

漫画がきっかけで福祉の道を志したという 管理者の渡邉勇さん

ーー当店では本のデータの打ち込みをしていただいていますが,他にも請け負っているお仕事があれば教えていただけますか?

渡邉:内職的なもの、例えば、コンビニとか100円ショップとかの店頭に並ぶような商品の検品、箱入れであったりとか、お菓子の箱詰めであったりとか、あとはチラシの封入作業とか。中古の本であったり、服であったりを検品して袋に入れ直して店頭に並ぶような形にするというようなお仕事もさせていただいています。

それは事業所内でやる仕事の例ですけど、ノースブックセンターさんでの仕事もそうですけど、事業所から離れたところでやる作業もさらさせてもらっています。具体的にいうと社宅の清掃、あとは不定期でスキャンとかの事務作業をやったりとか。

あとは今、週2から週3で保育業務も入ってます。職員と利用者さんだいたい1対1で保育園に行って、あるお子さんの見守りをするというような内容です。

ーーすごいですね,そんなこともされているんですね。

渡邉:たぶん同市内の事業所の中では作業の種類が一番多いと思います。これは僕のこだわりなんですけど、多くの方が利用してくれると、個性や良いところがみんなそれぞれ違うんです。なので、作業が多ければ多いほど、その人たちの良いところがたくさん探せるんです。福祉用語でいうと「ストレングス」、つまり「強み」ですが、その「強み」を利用者さんに持たせることによって働くことの喜びも得られますし、病状の快復につながるよう支援しています。

1つの作業内容しかなかったら、その作業内容が苦手だったら、その事業所の雰囲気がすごく良くても長く通えないじゃないですか。そういう「通えない」という事態を生み出したくないし、「どんな方でもいいところがある」っていうのを利用者さんに理解してほしいし、強みとして自分自身に落とし込んで欲しい。そういう理由からたくさん作業を用意しています。

「雰囲気はいいんだけど、工賃を上げて欲しい」という声

ーー次に当社をお知りになった経緯を伺いたいのですが。

渡邉:我々の事業所も徐々に利用者さんが増えていく中で、やっぱり課題だったのが工賃だったんです。Rootsは、平均すると月6,000円くらいなんです

私達の事業所では年に2回、利用者さんに無記名でアンケートを取るんですね。「どういう事業所ですか、改善して欲しいところはありますか?」といった内容の。そこでみなさん「事業所としては本当に居心地も良い」とありがたいことに高評価してくださるんですが、工賃の話になると一転、みんな厳しくて(笑)。「もっと高い方が良い」って話になるんです。

そこで、職員に「ちょっと作業の幅を広げたいから、営業をかけて欲しい」という話をして。八王子までその対象を広げてみたところ、こちらにたどり着いたという感じになります。

ーーそうだったんですね。工賃ですが、他の事業所さんともお話しさせていただいていると、生活保護を受給されている方などは一定程度以上稼いでしまうと生活保護費からその分が差し引かれてしまうので、モチベーションが下がってしまうという話題になったのですが。

渡邉:確かにそういう部分はありますが、生活保護を受給されている方が全員ではありませんし、rootsとしては、とりあえずは生活保護費からも差し引かれない水準、15,000円近くには近づけたいと思っています。

ーー当店として,それに向けてお手伝いできることはありますか?

渡邉:定期的にお仕事をいただけるのが、やっぱりありがたいですね。あとは、今は4名程度でやらせていただいていますが、利用者さんも倍にして、職員と合計10名くらいで作業ができると理想です。

あとは、できる作業の部分で良いのですが、事業所に持ち帰ってやらせていただけるとありがたいと思います。というのは、事業所にしか来れないという方もいらっしゃるんです。でも、そういう方にも「こういう作業しているんだよ」っていうのに触れて欲しいし、そこで慣れたら事業所から出て作業できるというようにつながっていけば、病状も間違いなく快復するので良いと思います。

モチベーションにつながるお仕事ですよね

ーー今のところ、利用者さんは当店での作業は楽しんでやっていただけているのでしょうか?

渡邉:かなり楽しく作業させていただいていますよ。あとは、集中力が必要になる作業もあるので良いですね。

何より、ここの雰囲気って事業所の雰囲気と違うんですよ。ルーツって福祉の事業所になるので、「社会に参加する」っていう形にはなっていますけど、どこかしらでゆるい雰囲気というんでしょうか、やっぱりあるんですよ。でも、こうやって外に出てやるっていうのは社会に出るための雰囲気を味わうのに大切なことなので、すごく良いなと。体力も向上しますし、あとは連携、協働して作業しなければならないという協調性を養うこともできる。何か分からないことがあったら、尋ねながら作業しなきゃいけないっていう「ホウレンソウ」を身につけることもできるので、うちとしてはありがたいことだと思っています。

あと、よくある内職の仕事って、今自分たちが作っているもの、例えば何かの部品が「何になるのか分からない」っていうことがあるんです。分からない、想像がつかないからモチベーションにつながりにくいんですよね。そういう意味でも古本は目に見える分かりやすいものをやっているので、モチベーションを上げるきっかけにもなっていると思います。

将来的には、こうやって作業させてもらっていた利用者さんが「ノースブックセンターさんで、障害者雇用でも働ける」みたいなことになると、私達の事業所としても安心ですし、非常に理想的ですね。

ーーそうですね。そこまでたどり着いてくれれば良いですね。当店としても作業に入っていただいて本当に助かる部分もあるので、お互いにwin-winの関係でいきたいなと思っています。

渡邉:まだ始まったばかりということもあるので、まずは作業に慣れることが肝心ですけどね。ビジネスということを考えたら、高単価の作業になってくると、やっぱりそれはそれなりに大変な作業になってくるとは思うので、利用者さんが本当にそこについていけるかっていうのを見極めながら判断しないといけないですね。「仕事が厳しいからいいや、もう行きたくない」ってなったら元も子もないですから。

その辺りは上手く連携をとりながら、「うちとしてはこうしていきたい」というご提案もさせていただきたいですし、逆に改善すべき点は言っていただければ、私達のほうもそれに向けてどうしたら良いかっていう対応を考えていければと思います。

(更新日:2022年07月29日)

当店が提携している就労支援施設一覧と紹介

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